学習性無気力感(Learning helplessness)とは
アメリカの実験心理学者のM.E.P.Seligman(マーティン=セリグマン)によって提唱された「努力を重ねても望む結果が得られない経験・状況が続いた結果、何をしても無意味だと思うようになり、不快な状態を脱する努力を行わなくなる」(デジタル大辞泉)という理論です。
学習性絶望感、獲得された無力感、学習性無気力などとも訳されています。
研究の歴史
M.E.P.Seligman(マーティン=セリグマン)の研究は、犬を使った動物実験です。(A)電気ショックのない単なるゲージと、(B)ランダムで電気の流れるが電気ショックを止めるボタンがあり、自ら電気を停止し苦痛を回避するゲージ、(C)同じく電気が流れるがボタンがないために、自ら止めることが出来ずに苦痛を甘受し続けなければならないゲージ。3種類のゲージにそれぞれ犬を入れ、BとCには電気ショックを与えます。
次に、簡単に逃げ出すことができる部屋で電気ショックを与えようとします。
結果、AとBの前提実験を終えた犬は回避行動を取るが、Cの犬は消極的にショックを甘受し続けました。
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前提実験 | 逃げ出せる部屋でショックを与える実験 | ||
A | 単なるゲージに入れられた犬 | ▶▶ | 部屋から逃げ出す |
B | 自分で止められる電気が流れるゲージに入れれた犬 | ▶▶ | 部屋から逃げ出す |
C | 自分では止められないゲージに入れられた犬 | ▶▶ | 部屋に留まる |
「何をやっても無駄である」という学習をしたCの犬は、環境が変わっても積極的行動を取ろうとせずに苦痛を苦痛を甘受し続けました。
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組織の中でも
この理論は犬に限らず幅広く応用されています。理由が分からず不快な状況が繰り返されたり、自己の努力の影響の及ばぬ範囲で努力が無駄になることで人も無気力になっていきます。
あるプロジェクトチームでは、新コンセプトの組織の立上げを実現に向け、事業コンセプトや運営規則、予算など主要事項を合意しました。しかし、いざ組織が立ち上がり事業推進にステージが移るタイミングで、上層部で意見が割れて横槍が入り、個別事業を見直すことになりました。次の会議で事業を見直し、実行段階へ。と、別の方から・・・・。
けれども明らかに自分たちの手の届かないところで二転三転、四転五転するうちに、モチベーションは下がりに下がり意欲が失われ形ばかりの新規プロジェクトになってしまいました。
もちろんプロジェクトメンバーは仕事ですから、初めのうちは藻掻きながらも前へ進めるべく必死の努力を重ねます。しかし、次第に自分たちの努力が対処の出来ない原因で無にされることが繰り返されるに従って、頑張ることを諦めるようになります。
フロー理論
チクセントミハイが提唱するフローは、 モチベーションの枠を超え自身の活動に没頭している状態における精神状態である。その8つの要素のうちにも、「状況の自己コントロール感」が示されている。
学習された無気力状態は、没頭し成功している感覚であるフロー状態とは真逆の状態である。
フロー体験 喜びの現象学(チクセント・ミハイ)
まとめ
うつ病は、学習性無気力が原因だとも言われています。一度、無気力状態にまで落ち込むと回復までに相当の時間や支援が必要になります。チームが自己抑制感を失い無気力状態に陥ると回復にはポジティブなインフルエンサーの投入やメンバーの交代など荒療治が有効です。
とは言え、チームを無気力感に陥らせる前に、然るべき立場のリーダーがチームをフォローし業務を調整をすることを願います。。
参考
人 間 の 学 習 性 無 力 感(Learned Helplessness)に 関 す る 研 究 :鎌 原 雅 彦 他(PDF)
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