英国で1980年代後半にサッチャー保守政権によってなされた教育改革は、日本にも、ゆとり教育の反動となる2000年頃の教育改革として影響を与えました。
例えば、学力テスト(2004~ 全国学力・学習状況調査)、学校理事会(2000~学校評議員制度、2004年~ 学校運営協議会制度)、学校選択制など英国を参考にしたであろう制度が整備されています。
しかし、20年経った今から振り返ると当時、議論は白熱したものの、日本的に骨抜きにされ、制度のみ残り、根幹をなす実際の強力な権限や活用はされているとは言えません。
UK教育システムの地方分権型からの転換
戦後のイギリスは、1944年教育法に基づく地方教育局が監督する教育システムを導入していました。
1960年代以降普及した児童生徒の興味に偏った教え方・教育内容から、イギリスの生徒が西ドイツや日本よりも悪い成績となり、さらに1970年代の世界的な経済不況で国の経済の停滞からの効率的な教育資源の分配の必要性が求められるようになりました。
中央集権型システムへ
経済改革を成功させた鉄の女マーガレット・サッチャーは、総仕上げとして教育改革に着手。1988年教育改革法を制定し、教育に対する国家の介入を強めました。
主な改革の目玉は下の4つです。
- ナショナルカリキュラムの策定と統一学力テストの実施
- 統一学力テストの結果を公表と親への学校選択権を付与
- 学校自治の保障
- 学校査察機関の設置
国家の介入による教育内容の標準化は、これまで教育を担ってきた地方教育局・各校・教員の現場との緊張関係をもたらしました。
ナショナルカリキュラムの策定と統一学力テストの実施
1981年 に,教育科学省 が教育課程 の編成に関する全国共通の指針として「学校教育課程(The School Curriculum)」 を公表しました。
1984年教育科学省は大学進学希望者を対象とする試験と,就職希望者 を対象とした試験を統廃合を決定し、1988年中等教育修了一般資格試験(GCSE)を実施しました。
地域や進路により複雑化していた試験を一本化することで、5歳から16歳の義務教育期間に身につけるべき水準を明確にすることにしたのです。その試験を実施するために、全国統一のカリキュラムを策定が必要だったのです。
このナショナルカリキュラムは、国語・算数・理科の中核教科(Core Subject)とその他の基礎科目(Foundation Subject)に分けれれ、特に中核科目が重視されていました。
国語、算数、理科
地理、歴史、音楽、美術、技術、体育、外国語、情報(コンピューター技術)、市民教育(シティズンシプ)
統一学力テストの結果を公表と親への学校選択権を付与
新自由主義のサッチャー政権では、学校間にも競争原理を導入し、学力テストの結果、成績の悪い学校を公表し、各校を競わせるネイミング・アンド・シェイミング(name and shame)を教育文化取り入れました。
そして、同時に 親に自分の子供をどの学校に入学させるか選択する権利を与え、優秀な学校により多くの生徒が集まるようにしたのです。
学校自治の保障
一方で、学校間競争を促すために、各学校の自治を法律に明記しました。校長・教師・親・地方教育局職員・地域代表からなる学校理事会(ガバナー)を制度を強化しました。学校理事会には、校長の任命や教員の採用などの人事権から、予算組み方、教材の選択、授業の進め方など学校運営について幅広い権限が与えられました。
人事権
・校長の任命
・教員の採用 など
学校運営に関する決定権
・予算組み方
・教材の選択
・授業の進め方 など
ナショナルカリキュラムでは、教育内容と水準を示すしましたが、各教科ごとの時間数に関する規定はありませんでした。それは、各校の実情に合わせて各校の責任で学校を運営がをすることを求めると同時に、結果責任を負わせるためだったのでしょう。
学校に裁量を与えることで、結果責任を明確にし、地域・保護者への説明責任を負わせたのです。さらに、各学校に権限移譲をしたことで、これまで強大な権限のあった地方教育局の弱体化をはかることにも成功しました。
学校査察機関の設置
1988年実施の中等教育修了一般資格試験(GCSE)に加え、義務教育期間を4つのキーステージに分け、ステージごとに到達段階を測定する学力テストを実施しました。
同時に、1992年に教育水準局(OFSTED)を制定し、第三者による学校査察機関を設置しました。査察機関により改善命令が出された後、2年間で改善ができなかった学校に対しては、教育技能相が学校の閉鎖を命じることができるようになりました。
キーステージ | 年齢 | 学年 |
---|---|---|
1st | 5歳~7歳 | 1年生~2年生 (2年間) |
⬇ 7歳テスト 1991年~実施 (英語・算数) ⬇ |
||
2nd | 7歳~11歳 | 3年生~6年生 (3年間) |
⬇ 11歳テスト 1995年~実施 ⬇ |
||
3rd | 11歳~14歳 | 7年生~9年生 (3年間) |
⬇ 14歳テスト 1993年~実施 ⬇ |
||
4th | 14歳~16歳 | 10年生~11年生 (2年間) |
⬇ 中等教育修了一般資格試験(GCSE) 1988年~実施 |
参考資料
1988年イギリス教育改革法の主要点と問題点 (鈴木 正幸 他)
初等中等教育の課題と展望 (文部科学省)

コメント